「いのちの生まれる時、ブラジルにて」
A CAMINHO DO PARTO HUMANIZADO

ブラジルで一番貧しい州といわれているセアラ州にて、「人間的な出産」ができるようにと、JICA(国際協力事業団)の母子保健チームが活動していた。出産のビデオ制作の依頼を受けたわたしは6週間のブラジル滞在中に2本のビデオを作った。中絶することが違法なため、13才、14才の少女たちが出産する。帝王切開率が非常に高く、出産による母子の死亡率も高い。「安全でやさしい」自然分娩を、ブラジルの女性たち、男性たちに知ってもらうためのビデオである。

製作:JICA 、セブンウェイブス
プロデューサー:田口やよい、山崎博子
監督、脚本、撮影:山崎博子
監修:吉野八重
- テキスト -

「これは1996年から始まったセアラ州での『人間的なお産』運動の記録の一部です」


MEAC・連邦大学病院(フォルタレーザ)
若い女性「とってもいいお産だったわ。マッサージをしてもらったりして、みんなとても親切だったわ」

N:ここはフォルタレーザにある連邦大学病院です。
安全で、やさしいお産にむけて、いろんな変化がありました。

N:ボールの上に乗っているのは、赤ちゃんが下がるのを助けるためです。
彼女は初めての出産を迎えようとしています。

N:イゾルダは産科看護婦です。
母子が健康ならば、自然分娩が一番ですと、彼女は言います。

N:この病院では、月に600人ほど女性が出産を迎えます。出産では、妊婦が主役です。 妊婦が好きなポジションで陣痛を迎えることが大切です。妊婦が自分の意向を伝える  ことが大切です。

N:アンドレアは14才です。はじめての出産です。陣痛が来ています。
陣痛が子宮口を開けるのを助けます。出産では子宮口が開くのを待つことがとても大 切です。

看護婦「大丈夫よ。これはとてもノーマルなことよ」

N:本来なら、へその緒を切る前に、お母さんのお腹の上に赤ちゃんをのせてあげること になりますが、アンドレアの場合はへその緒が短かかったので、切ってからのせてあげることになりました。


州立大学病院(フォルタレーザ)
お産を待つ家:Casa de Gestante

看護婦「あなたはどうしてここに来たの?どこが悪いの?」

N:ここは州立大学病院の中にある、家族的な雰囲気を作ろうとしている「お産を待つ家」 です。
遠隔地に住んでいる妊婦のお腹の中の赤ちゃんに異常が認められた場合などの、ハイリ スク出産のお母さんが、早期に入院できることになっています。

妊婦A「子供に異常があって、危険性があるのでここに来たの」
妊婦B「看護婦さんがとても親切で、ここにいると安心できるわ。毎日、血圧をはかってくれたり、異常がないか調べてくれる」
妊婦C「ここに来る前はどんなところかわからなかったので、とても不安だった。とんでもない変なところへつれていかれると思ってね。でも、ここに来て本当によかったわ」

クラフトセラピー:Terapia de Craft
N:早産をしたお母さんたちで、赤ちゃんと一緒に入院しています。母乳をあげるかたわ ら、クラフトづくりのセラピーに参加しています。お母さんにとっては、このような気晴らしが、大切です。

カンガループログラム:Programa Kanguru
N:未熟児のためのカンガループログラムです。母と子で、肌のぬくもりを感じあい、匂 いをかぐことで互いの絆が深まります。そのことによって、お乳もでやすくなります。

妊婦「早産で、1700グラムだったの。七ヶ月で生まれてきたの」

母乳バンク:Banco de Leite
N:未熟児が健やかに育つためには母乳は大切です。この母乳バンクでは、母乳を凍らせ て置いて、看護婦さんが赤ちゃんに飲ませることになっています。お母さんがお乳の  出にくい赤ちゃんも、この母乳バンクからミルクをもらいます。


助産所 カサ・デ・パルト(サンパウロ)

N:妊婦のお母さんです。ここでは、妊婦の家族や友人が分娩に付き添うことができます。

N:カサ・デ・パルトは健康に問題のない人のために作られました。
自宅で産むようなくつろいだ環境と、プロの産科看護婦のケアによって、より人間的 なお産をめざしているところです。

N:赤ちゃんの心音聴取をしています。

N:ここは新しい試みとして、1998年9月、州の保険局によって、サン・パウロの下 町に開設されました。

看護婦「えっ、一度目が早産で、二度目が帝王切開だったの?!・・・・」
妊婦「はい」
看護婦「ここは自然分娩の出産しかできないのよ。知ってるわよね?」
妊婦「知ってるわ」

N:彼女は自然分娩をしたいと願ってこのカサ・デ・パルトにやってきたのです。

看護婦「食事に気をつけてね。豆とか、麺類、野菜、果物もたくさん食べるようにね。栄養のあるものを食べてね」

N:マチルジはここの産科の看護婦です。今まではずっと、大きな病院で働いていました が、カサ・デ・パルトができてからは、週の半分はここで働いています。

カサデパルトのスタッフが、昼ご飯の準備をする。

N:出産の経過が良くなかったので、より詳しい検査ができる病院に送られることになり ました。

N:カサ・デ・パルトでは、妊婦の状況にあわせて、常に病院との連携プレイができるよ うになっています。救急車はそのために必ずなくてはならないもので、いつでも対応できるようになっています。

看護婦「今まで待ってみたけど、どうしても子宮が開ききらなかったの。これ以上待てないと判断したので、病院で手術してもらうことにしたの」

N:退院したお母さんと赤ちゃんが、家族そろって再び訪ねてくる時は、マチルジにとっ てこころなごむ時です。
コミュニティの中でのカサ・デ・パルトの役割に、あらためて希望と責任を感じると きでもあります。

サンタ・ルイザ・デ・マリラック病院(アラカチ)

N:アラカチのサンタ・ルイザ・デ・マリラック病院では、新しい試みとして、妊婦のた めの母親学級が、開かれています。

八重:胎盤が完成する3,4ヶ月ごろまで、個人差がありますが、つわりを体験する人が多いでしょう。それは胎盤が完成するまでの時期に一致していて、ホルモンのなせるものです。たいていの場合、だんだんと楽になっていきます。
アンジェラ「そのためには空腹を避けること、朝起きるときになにかを食べるなどするといいです」
つわりの症状緩和と予防について
腰板予防について。体操(ランバダ)をすること。
夫がお産に立ち会うことの意義と必要性について。
立ち会うための心理的な準備が必要である。

若い父親「いてもたってもいられないよ。僕の子供が生まれるんだ」

N:彼は初めての子供の出産を待っています。妻と一緒に病院にやってきました。

N:お産は、お母さんが産もうとするエネルギーと、赤ちゃんが産まれようとするエネルギーが、一緒になった時に起こります。また、女性が自分自身と向き合うすばらしい機会です。

N:ジョアナは18才です。初めての出産です。妊娠がわかったら、ボーイフレンドがどこかへ行ってしまったけど、わたしもやっかい払いができてせいせいしたわといいます。

N:ジョジレンは19才です。彼女にとっては2度目の出産ですが、彼女の夫にとっては、はじめての赤ちゃんです。

看護婦「いったい、どこへ行ってたの?」
若い父親「昼ご飯を食べに行ってたんだ」
看護婦「こんなときによく食べにいってられるわね」
若い父親「だって、まだ生まれそうにないんだもん」

N:生まれてからの2時間ほどは、赤ちゃんが覚醒するときです。この時の母子の接触は、その後の母と子の絆にとってとても大切です。

妊婦「彼女のおなかは小さかったけど、わたしのはとても大きいから、大変よ。なかなか生まれないわ」

N:サンタ・ルイザ・デ・マリラック病院は、セアラ州では数少ない家族などの付き添いができる病院です。ジョアナのお母さんです。

N:子宮がまだ開ききっていません。 入院してから、7時間が経過しています。

N:男の子だったら、マテウスという名前に決めていたのでした。

N:お母さんがへその緒を切ることになりました。

シスター:へその緒でお母さんと赤ちゃんはつながっていました。今、そのへその緒を切ったけど、これからは、愛情でお母さんと赤ちゃんはつながっていくのよ。

N:シスターの言葉:
人間的な出産というのは、すべてが一緒に働かなければなりません。
まず、産科病棟で働くスタッフは、妊婦の尊厳(respecto)を守ってケアできるようにトレーニングを受けなでればなりません。この尊厳とは、基本的に妊婦さんの「選択の自由」を尊重するという事です。
妊婦は大変なストレスにさらされているので、すべての面で尊重されなければなりません。彼女は家を出て、車に乗って、病院に来るというだけで、大変なストレスにさらされているのです。病院に着いたときには、最大の尊敬を持って扱われなければなりません。この時、二つの命が生まれるからです。母と子供の二つの命です。
病院で働くプロのスタッフは、妊婦に、十分な「選択の自由」と「安全」を提供しなければなりません。妊婦が出産するとき、安全な環境であると感じれることが大事です。
出産の時のポジションも、妊婦がベッドに横たわっていたかったらそうするのがいいし、すわっているのがいいならそれがいいし、自由でいることが大切です。
大切なのは、妊婦が「選択の自由」を持つということです。そうすることで、妊婦は自分は「安全」だと思えるからです。安心できるのです。


字幕タイトル
このドキュメンタリーに登場した妊婦さんたちの勇気と、看護婦さんたちの努力にに心より敬意を捧げます。
人間的な出産をめざして、専門家たちのいろんな努力が続いています。これは、妊婦さんたちの参加があってこそ、可能になるものです。




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